一輪車に乗って見下ろす町は
僕は寝ているときそれほど夢を見るタチではないが(正確には目覚めた後夢を覚えていることがほとんどない)、たまにすごく恐ろしい同じような夢を見ることがある
中でも一番恐いのは自分が一輪車に乗って町を徘徊している夢だ
これは身の毛がよだつほど恐い
なんつったってその一輪車の高さは裕に20メートルを超える、おそらくビル10階くらいの高さがあるからだ
そんな罰ゲームも甚だしい一輪車に股がって何の支えもない状態で進まないといけない
見下ろす道路は多くの人や車が行き来する忙しい一般道でもちろん地面は堅いアスファルトでできている
倒れるようなことがあれば命はない
しかしそんな状況ですでに支え無しの状態でスタートしてしまっている
漕いで前に進まない限り確実に倒れ、はるか下の地面に叩き付けられる
だから僕は泣きそうになりながら、何か支えに手が届く場所まで絶対にいってやるという決死の覚悟を胸にペダルを漕ぎ出す
しかし問題がある
そもそも僕は普通サイズの一輪車ですら乗れない
人生これまで一輪車を漕げた試しが無い
いや、ちょっと僕が運動神経が悪いみたいな印象を持たれると損だし、なんか悔しいのでここは言い訳させてもらうと
僕は小学生ながら一輪車ができた時点で女の子からモテることはまずないということを悟っていたので、一輪車をろくに練習したことがないし、上手くなりたいと思ったことすらない。だからもちろん乗れないし、乗れないことに何の悔しさも感じたことはない。
言っておくがその他のスポーツは大抵、平均以上の能力はあると自負している(※泳ぎ以外)
いや、待て、「泳ぎ以外」と書くとまるで僕が全く泳げないやつだと思うかもしれないがそういう訳でもない。中学生の頃、泳ぎの上手い人間から嘲笑されながらも、もがきながら25メートルは泳ぎ切るという快挙を成し遂げたことはある。だから決して全く泳げない訳ではない。 その気になれば25mは泳げるのだ(ドヤ顔)
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誤解が解けたところで
僕の置かれている絶体絶命な一輪車の上に話を戻そう
そう、漕げもしない一輪車に乗せられ、何の支えもないまま地上数十メートルの高さに放置されているこの状況
半泣きでペダルを漕ぎ、進み出す自分
今自分の置かれている足のすくむような高さを意識せぬよう必死にただゴールである、支えになる何かに掴まれるその瞬間まで絶対に漕いでみせる
生きようとする意思は強い
これまで自分がこんな強い覚悟を持って何かをしたことがあっただろうか・・
きっと小学生の頃給食の時間に好きな女の子に「うちもトマト嫌いだから、根木君、せーので一緒に食べよう?」と言われたあの時くらい今の自分は強い覚悟を決めているかもしれない
その時の僕は言うまでもなく食べ物の中でダントツで一番嫌いなトマトを口に含み、自らこの歯であの気持ちの悪い、薄い張りのある皮を破り、ぐちゅぐちゅした気持ちの悪い食感とあの特有の、僕の味覚と嗅覚が即座に拒絶反応を送り出してしまう生臭さに嗚咽しながら死ぬ気で喉の方へと物体を送り込もうとした。が、その瞬間またもう一度大きな嗚咽に襲われ結局その前に食べていた他のおかずたちもセットでその子の前でリバースしてしまうという大失態を犯してしまった。
あの時の自分くらい強い覚悟を胸に今の自分は一輪車を漕いでいる
漕ぎ出して意外と進めることに気付く
だめだ
気を抜くな
なんとか
何としてでも
支えになるものにたどり着くまでは・・
じゃなきゃ死ぬ・・
ガンッ
自分の遥か下で何かがぶつかった感覚を覚える
なんせ自分が進んでいるのは人や車の多い一般道だ
地上ではありとあらゆる段差や物で溢れている
そこを下も見ず、いや、見る事もできず一輪車を漕いでいたのだ
無謀な挑戦だった
・・・・
「いやいやいや、この状況で障害物はなしだろ」
手加減なしの厳し過ぎる現実に(夢だけど、夢の最中はリアルやん?)怒りさえ覚えた時にはもう自分の身体は前へと傾いている
落ち始めの瞬間はとてもゆっくりで、まるで映画のワンシーンでも見ているかのように滑らかに奈落の底へと落ちてゆく
落下速度はどんどん加速し、ついにはジェットコースターに乗った時の「胃の浮く感じ」と表現されるあの感覚の最強版と表現すればいいだろうか・・あれを味わった
ああ死んだ・・
そして地面に叩きつけられる瞬間に目を覚ますというお決まりのパターン
そう、これが僕の定番の最恐悪夢なんです
いやこれ、まじでこわいんすよ
きっと僕と同じように似たような夢を何度も見る人っていると思います
あなたのちびるような悪夢ぜひ聞きたい
いやあ、しかし
一輪車のあの不安定感ときたら反則だろ